2012年11月25日

久しぶりに良書と出会った

宇宙に関する本が読みたくなって、数週間前に図書館に行った。そこで見つけて借りてきた本である。

『すべてはどのように終わるのか あなたの死から宇宙の最後まで(How It Ends - From You to the Universe)』
クリス・インピー(Chris Impey)著
小野木明恵 訳

僕は本を褒める人ではない。おそらく、自分の中の変なプライドやものの見方がそうさせるのだと思うのだが、滅多に「これはよい本だ」とは言わないのである。

さまざまな本をこれまでに読んできたが、だいたいの場合(ほとんどの場合、といっても良いかも知れない)、最初の1/10ほど読んでやめてしまう。のめり込める本が少ないのだ。

その結果、僕の手元には、小松左京、村上春樹、阿佐田哲也の3氏の本しかない。この3氏の本を繰り返し繰り返し、読んでいるのだ。

特に、小松左京に傾倒している。何だ、SFか、と言うかも知れない。まさに、SFの巨匠だ。だが、小松左京を深く何度も読んでいる人はわかっていると思う。小松左京氏の著作は、SFを舞台にした人間文学なのだ。異論があることは認める。だが僕は、SFという枠を大きく越えた文学であると強く思っている。

そんな人間が良書だという本だから、まさにその手の、理系的な、宇宙的な、物理的な本なのだが(笑)。

クリス・インピー氏は天文学が専門の大学教授である。またそういうと、小難しい専門用語がたくさん出てくる理系の本なのだろうと想像されるだろう。ところが、この本はちょっと違う。極力、専門用語は使わないと「はじめに」で著者が断っている。もちろん、専門用語なしでは成り立たない内容だが、大変わかりやすいストーリーと、巻末での詳細な追加説明でより理解ができるように配慮されている。

でも、そんなことで僕は良書とまでは言わない。したためられている内容が魅力的なのだ。

この手の個人的感想では、当然、著作の詳細な内容を説明することはできない。詳細を説明してしまいたい欲求を抑え、簡単に書くと、この本は「始まりと終わり」の本である。だが、村上春樹氏の「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」のようなものを想像してはいけない。この本は小説ではなく、天文学とか物理学とか、その手の世界で検証された、または、検証されようとしている「事実」が書かれている。

こう書くと、ああ、また難しい話だと思われそうだ。
だが、とても読みやすい。読者を飽きさせないように、所々にジョークがちりばめられ、心温かくなったりもする(心凍る事実もたくさんある(-_-))。

だいたいにおいて(ほとんどの場合といっても良いかも知れない)、この手の翻訳ものは、文章が翻訳調になってしまって読みづらいものだが、この本ではそのような感じがまったくといっていいほど、ない。訳者の力の大きさを感じたものである。

特に衝撃を受けたのは、炭素の話である。炭素? そう、地球温暖化でいろいろ問題になっている二酸化炭素の構成元素の一つである炭素である。

人間は多様な有機物で構成されているが、元をただせばいくつかの元素である。特に量の多い元素が炭素「C」である。僕ら一人一人の中にも大量の炭素が存在するのだが、その炭素がどこから来たものなのかと言うことが書かれていたら、興味を引かれないだろうか。

ビッグバンからさまざまな過程を経てできた炭素が、宇宙の星々を構成し、星が終末を迎えて壊れ、星を形作っていた炭素はまた宇宙を漂い、地球ができるときに取り込まれ、その一部の炭素が僕らに含まれている。そういう話。

そして僕らはやがて死ぬ。火葬されるのか、土葬されるのか、いずれにしろ、分解される。僕を構成していた炭素は果たして次は何を構成するのだろうか。そういう話である。

もちろん、炭素の話だけではない。さまざまな始まりと終わりが書かれている。

そして、最後は宇宙の話。
宇宙は137億歳と言われているけれど、そういえば、この先宇宙はどうなるのかって言うことを、あんまり読んだり聞いたりしたことがないな、と思っていた。

この本を読むと、現在わかっているレベルでの話だろうけれども、宇宙がこの先どうなるのかがわかる。そして、137億年というのは宇宙にとって序盤も序盤であり、全然まだまだ、これからなのだと言うことがわかり、実は圧倒された。

そういうスケールの本なのである。

。。。
。。。
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このまま書き続けると、詳細を書いてしまいそうなのでやめる(笑)。

とにかく、この本に出会って良かったと素直に思ったし、書かれている内容は壮大すぎるけれども、自分の人生に投影すると、何かしら感じ入るところがあるかも知れないと僕は思う。

図書館で借りてきた本なので、今日返さなければならないのだが、手元に置いておきたいと思うので、たぶん近いうちに購入するだろう。そして、何度も読むと思う。

なかなか、そういう本には出会わないので、素直に嬉しかった。